unlovable
自作小説。主にショートストーリーを書いています。
わたしが死ぬまでにしたい10のこと

「・死ぬまでにしたい10のこと・ってビデオ知ってる」
「聞いたことあるよ」

24時間営業のファミリーレストラン。
高校生のわたしたちにとって、ここはとても居心地の良い場所。
お代わり自由のドリンクセットのドリンクで、もう何時間いるだろうか。

「これって、タイトルが良いよね。なんとなく内容がわかるっていうか」
「そうだね」

「恐らく日常的なことが、死ぬって分かった瞬間違って見えるとか。
些細なことに幸せを見つけるとか。多分そんな感じの映画なんだと思う」
「何だ、まだ見てないの」

「うん」
「何で。面白そうじゃない」

「見る前に自分でも考えてみようかと思って」
「何を。あー、なるほどね」

「考えると、結構10個ってないんだよ」
「それで。いくつかは何をしたいの」

「うーん、おばあちゃん家の前にある、たこ焼屋のたこ焼をお腹いっぱい食べたいとか。
冷凍じゃない生のカニを、お腹いっぱい食べたいとか。まえに近所の人が群馬のお土産だってくれた高菜を、熱々のご飯と一緒に何杯も食べたいとか。まぁ、そんな感じ」
「そんななの!」

「だって、死ぬんだからダイエットする必要もないでしょ」
「そんな太ってないじゃない」

「今は陸上やってるから大丈夫だけど。やめたら、きっとデブだよ」
「そうかな」

「そうだよ」
「なら、そうかも」

「そこは、認めないで欲しい」
「いいけど、もっと他にないの。わたしなら、死ぬ前に好きな人と観覧車とか乗りたいけどな」

「へー、ロマンティック的なんだ」
「何、以外」

「以外っていうか、行けば良いじゃない。彼氏いるんだから」
「だって、彼は遊園地大嫌いって言うんだよ」

「そうなんだ」
「そう、ねずみはねずみだろって。ペンギンのほうが1000倍可愛いって。南極行きたいって」

「そういう問題なのかな。でも南極とかって、日常的じゃないけど良いかも」
「わたし、寒いところだけは絶対に行かない」

「かみ合ってないよね。あなたたちって」
「だから続いてるのかな」

ふたりで立ち上がり、カウンタバーにドリンクのおかわりに行く。
わたしは引き続きアイスレモンティーにする。あっ、スライスレモンが切れている。

--

風を切る音、スパイクが土を掻く音、わたしの精神が研ぎ澄まされていく。
まるで真っ白な世界を、ただ一人走っているような。世界に体が溶け込むような。
こんな感覚になったのは、生まれて初めてだった。


「先輩が引退する前に、わたしと400メートルを走って頂けませんか」


夏休み前の校庭。
全ての授業は午前中に終わっている。

「良いよ、俺で良ければ」
「手加減はしないでください」

「わかった」
「お願いします」

わたしはゴールするなり倒れこんでしまった。全身が息をしている。
仰向けに寝転がった体は、そのまま空に吸い込まれていきそうだった。
思い出す。先輩の走る姿に憧れて、始めた陸上だった。

先輩が近寄って、わたしに手を差し伸べてくれた。
立ち上がり、その手を両手でにぎって何度も何度も深くおじぎをした。

--

深い青色の空。誰もいない校庭に、飛行機雲が落ちていく。

わたしが死ぬまでにしたいこと。それは、ただひとつだけだった。
でも分かった。死ぬまでにじゃなく、今するべきなんだって。


Written day:2006/08/07

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