unlovable
自作小説。主にショートストーリーを書いています。
10フレーム

ブラックライトに照らせれ、ボーリングのボールがレーンを滑っていく。


駅前のファーストフード。最近知り合った女の子と一緒。
新鮮、全てのことがこの言葉によって許される様な気になる。
彼女との会話はちょっとした話題からも途絶えることなく連鎖していった。

彼女はいつも大学が終わると18時半から遅番のバイトにいく。
落ち着いた雰囲気のカウンターバー。そこで彼女と知り合った。
今日もシフトは入っていて、後30分程でここを出る。

「今日バイトに行くのやめる。どっか遊びにいかない」
「でもバイト休めるの」

話が盛り上がりすぎたようだ。

「今日は体調が悪いって言うよ」
「そんなんで良いんだ」

20時からは2年半付き合っている彼女との約束があった。
最近は忙しいからと2週間程会っていない。
その間、目の前にいる女の子と会っていたわけだが。

「だめ。今日予定ある?」
「うーん、これから友達と会う約束があるんだ。昔バイトが一緒で久しぶりに会う」

相手から聞かれてもいないのに説明する場合、大抵は嘘だ。
本当のことに説明はいらないから。そう分かっていても補足したくなるよな。

「友達と会うの断れないかな」
「そうだな、明日じゃだめかな。明日ならゆっくり会える」

「うーん、今日はだめ?」
「そうだな」

彼女の気持ちとしては、今盛り上がって、今一緒にいたいんだろうな。
それはそうだ。今の気持ちが明日も同じだとは限らない。
話していて分かる彼女の性格。彼女は自分の気持ちの声を何よりも大切にする。

結局、彼女はバイトにいくことになった。もちろん俺が断ったせいだ。
駅に向かう。彼女はかなり不機嫌なまま、改札を抜けていった。最後まで振り向くこともなかった。
溜息。今日のテンションに戻すまで、またどれくらいの時間がかかるんだろう。

折りたたみ式の携帯を開く。メールが入っていた。
2年半付き合っている彼女からだ。

「今日ごめん。会社のパーティーが入った」

相変わらずの簡潔メール。
すぐに今別れたばかりの女の子に携帯を入れた。出ない。
その後も2度入れたが結局出なかった。

--

駅の雑踏を抜けたところ、その正面に建つビルの中にあるボーリング場。

タイミングが悪い。そんなところだろうか。
あれから何人かの友達にも電話をしたが誰も捕まらなかった。

隣のレーンでは俺と同じく一人で来ている男がいる。
彼はものすごい違和感を周囲に発している。誰もが関わりあいたくないそんな空気を。

その理由は彼の投球ホームにある。
ボールを投げる前に必ずテレビの魔法少女の振り付けをしてから投げる。
見なかったことにするしかないだろう。

しかし、ふたりの女の子から弾かれた俺の未来は、とんでもないところに迷い込んだようだ。


さっき投げたボールがレーンの下を通って手元に戻ってくる。
新たにもう一度投げればいいだけのことなんだろうか。

考えるのを止め、姿勢を正してボールを投げた。いつも引っかかる親指も今はきれいに抜けた。
その瞬間、全てのピンを弾き飛ばす軽快な音が耳に届いた。
一人で小さめのガッツポーズ。隣を見ると魔法少女の男が拍手をしていた。

昨日と同じように見える今日。
それは同じように見えるだけで、何もかもが違う一度限りの今。

10フレーム。ボーナスショット。
僕は最後のボールを、いつ届くか分からない未来へと放り投げた。



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