unlovable
自作小説。主にショートストーリーを書いています。
返却

今は日曜の午後。昨日は遅くまでビデオを見ていた。

わたしはレンタルビデオのお店のとなりにある雑貨屋さんに来ている。
さっき、金曜の夜に借りたビデオを返してきたところだ。

この雑貨屋さんには始めて入った。
店内には小さな木のボックスがたくさん置いてあって、
その中に小物やアクセサリー、ぬいぐるみなど様々な物が入ってる。

入り口の近くにはポストカード入れのスタンドが置いてあり、
イラスト、写真などのポストカードが並べてある。

あたしがぼんやり眺めていると、お店のお姉さんが話しかけてきた。

彼女がいうには、このお店の商品はすべて個人の手作りだそうだ。
手作りといっても、中にはプロを目指している人もいるそうだ。
実際多くはないが、プロとして仕事をしている人もいるそうだ。

わたしは木のボックスに収められた作品達を、ゆっくりと眺める。
普通にお店に置いてあったら、素人が作ったものとは分からない物もある。
もちろん中には、「???」という物もあるが。

わたしはポストカードが置いてあるスタンドの前に移った。
こちらも素人レベルからプロレベルまで様々だ。

1枚のイラストに目がとまる。

雨の中を女の子が一人で歩いているイラスト。
女の子はトレーナーを着ていてフードを被っている。傘は持っていない。
淋しいイラスト。色合いがポップなだけに、よけいに淋しさが際立っていた。

「フードの中に、はりねずみがいるんだよ」
「えっ?」

お姉さんが、話かけてきた。すごく自然に話をする人だ。

もう一度イラストを見る。本当だ、フードの中にはりねずみがいた。
心配そうに女の子の頭の上に乗っている。かわいい。

「実はこのイラストの中には、隠し絵があるのよ」
「なんですか、それ?」

「イラストを良く見てみて。何か見えてこない?」
「うーん」

もう一度イラストを見てみる。分からないとなんだか悔しい。

「ヒントは雨粒よ」
「あっ、あっ、雨粒がハートのかたち?」

「正解!」と、お姉さんは言ってくれた。なんだか嬉しい。

雨粒が彼女達を取り囲むように降っている。それがハートの形をしているのだ。
淋しいイラストとばかり思っていたのに。胸に温かいものが込み上げてきた。

わたしはそのポストカードを買うことにした。
お姉さんは、かわいい紙袋に入れて渡してくれる。

「はい、どうぞ」
「どっ、どうも、あっ、ありがとうございます」

お姉さんが、一瞬不思議そうな顔をした。

「どうして、あなたがお礼をいうの?」
「えっ、あ、あのー、イラストのことを教えてくれたから」

わたしはお店を出て、レンタルビデオ店の前にとめてある自転車に乗った。
お姉さんがお店の入り口から見送ってくれた。わたしは、しっかりとおじぎをした。

アパートに続く長い坂道を、わたしは下っていく。
鉄塔と鉄塔を繋ぐたくさんのケーブルが、春の風に揺れていた。

わたしは自分のことを、複雑で単純な人間だと思う。
でも、これで良いよね。


Written day:2006/05/29

わたしが死ぬまでにしたい10のこと

「・死ぬまでにしたい10のこと・ってビデオ知ってる」
「聞いたことあるよ」

24時間営業のファミリーレストラン。
高校生のわたしたちにとって、ここはとても居心地の良い場所。
お代わり自由のドリンクセットのドリンクで、もう何時間いるだろうか。

「これって、タイトルが良いよね。なんとなく内容がわかるっていうか」
「そうだね」

「恐らく日常的なことが、死ぬって分かった瞬間違って見えるとか。
些細なことに幸せを見つけるとか。多分そんな感じの映画なんだと思う」
「何だ、まだ見てないの」

「うん」
「何で。面白そうじゃない」

「見る前に自分でも考えてみようかと思って」
「何を。あー、なるほどね」

「考えると、結構10個ってないんだよ」
「それで。いくつかは何をしたいの」

「うーん、おばあちゃん家の前にある、たこ焼屋のたこ焼をお腹いっぱい食べたいとか。
冷凍じゃない生のカニを、お腹いっぱい食べたいとか。まえに近所の人が群馬のお土産だってくれた高菜を、熱々のご飯と一緒に何杯も食べたいとか。まぁ、そんな感じ」
「そんななの!」

「だって、死ぬんだからダイエットする必要もないでしょ」
「そんな太ってないじゃない」

「今は陸上やってるから大丈夫だけど。やめたら、きっとデブだよ」
「そうかな」

「そうだよ」
「なら、そうかも」

「そこは、認めないで欲しい」
「いいけど、もっと他にないの。わたしなら、死ぬ前に好きな人と観覧車とか乗りたいけどな」

「へー、ロマンティック的なんだ」
「何、以外」

「以外っていうか、行けば良いじゃない。彼氏いるんだから」
「だって、彼は遊園地大嫌いって言うんだよ」

「そうなんだ」
「そう、ねずみはねずみだろって。ペンギンのほうが1000倍可愛いって。南極行きたいって」

「そういう問題なのかな。でも南極とかって、日常的じゃないけど良いかも」
「わたし、寒いところだけは絶対に行かない」

「かみ合ってないよね。あなたたちって」
「だから続いてるのかな」

ふたりで立ち上がり、カウンタバーにドリンクのおかわりに行く。
わたしは引き続きアイスレモンティーにする。あっ、スライスレモンが切れている。

--

風を切る音、スパイクが土を掻く音、わたしの精神が研ぎ澄まされていく。
まるで真っ白な世界を、ただ一人走っているような。世界に体が溶け込むような。
こんな感覚になったのは、生まれて初めてだった。


「先輩が引退する前に、わたしと400メートルを走って頂けませんか」


夏休み前の校庭。
全ての授業は午前中に終わっている。

「良いよ、俺で良ければ」
「手加減はしないでください」

「わかった」
「お願いします」

わたしはゴールするなり倒れこんでしまった。全身が息をしている。
仰向けに寝転がった体は、そのまま空に吸い込まれていきそうだった。
思い出す。先輩の走る姿に憧れて、始めた陸上だった。

先輩が近寄って、わたしに手を差し伸べてくれた。
立ち上がり、その手を両手でにぎって何度も何度も深くおじぎをした。

--

深い青色の空。誰もいない校庭に、飛行機雲が落ちていく。

わたしが死ぬまでにしたいこと。それは、ただひとつだけだった。
でも分かった。死ぬまでにじゃなく、今するべきなんだって。


Written day:2006/08/07

友人

わたしは、人と手を繋ぐことが出来ない。

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駅、南口の改札から出てすぐのところにある喫茶店。
友人と久しぶりに会い、お茶でもしようということになった。

お互いの近況報告が始まる。

友人は今、在宅でホームページ製作の仕事をしているらしい。
今日は仕事仲間との交流会だったそうだ。
いつも仕事は自宅のため、外出はあまりしない。
そのため、こういう機会はとても大切にしているそうだ。

仕事はかなり忙しいらしく、徹夜も良くあるらしい。
自分の持ってる技術力で仕事をしている彼女がとても羨ましくもあるが、
そんなことは自分にとうてい出来ないなと、心の中でため息をついた。

仕事が楽で本がいつでも読めるからとの理由で、
古本屋さんのバイトをしている自分が少し情けなくなる。
今日もバイト終わりに読みたかった本を1冊お店の棚から抜いて、
お茶でもしようとしていた所だった。

在宅での仕事の厳しさ、難しさ、また仕事に対する姿勢を
真摯に語っている友人には、とても言えない。

わたしは、友人が連れている子供のことに話を移すことにした。
子供は女の子二人で、7才と4才。4才の子とは始めて会う。

長女は話をすることが大好きらしい。
すべてにおいて脈絡のないまま、話の話題は次から次へと展開する。
きっと長女の中には、ちゃんと関連性があるのだろうけど。

例えば、こんな感じ。
「わたしはさっきまで船に乗っていた、すると次はめがねの上に座っていて、
こんどは薄っぺらになっている。それから、お母さんの心の中にいて、
それから、それから、」と話はどこまでも続いていく。
発想に枠がないなー、と感心。続きを楽しみにしながら聞いた。

そして次女はというと、
彼女はずっと押し黙ったまま席に座り、ぬいぐるみと遊んでいる。
友人によると、次女はすごく頑固な性格らしい。

例えば、こんな感じ。
次女はジャンケンが嫌いで、決してしないそうだ。
幼稚園などに通っていると、子供達の間でジャンケンは日常アイテム。
それをしないということは、なかなか滞りがあるらしい。
試しに「ジャーンケン」と次女に振ってみたが、やっぱりダメだった。

友人にしない理由を尋ねてみると、次女は「勝ち負け」を決めるのが嫌いなそうだ。
ジャンケンをするぐらいなら、しないで「負け」でいいらしい。
「へー」と、こちらも感心してしまった。とても、しっかりしている。
友人によれば、融通がきかなくて困ることがとても多いらしいけど。

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わたしたちは喫茶店を出た。
友人が夕食を買いに行くというので、わたしも少し付き合うことにした。

スーパーに向かう道の途中、わたしは次女の手を引いていくことになった。
長女が友人と手を繋ぎたがったからだ。残った次女と、わたしが手を繋ぐ。

次女は初めて会ったわたしとも、特に嫌がる風もなく手を繋いだ。ただ自然に。
彼女の手からは、わたしに対して微塵の不安、疑いのないことが伝わってくる。
逆にわたしの手からは、どんな思いが彼女に伝わっているのだろうか。
彼女の手から伝わる無垢な感情が、わたしをとても不安にさせる。

大きな交差点を渡る。たくさんの人の中を、交差する白線の中を、
わたしは気持ちを丸裸にされたような感覚で歩いていた。

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わたしたちはスーパーの前で別れた。
友人達に振ったわたしの手の中に、小さな手の感触が残っている。

彼女は気付いただろうか。わたしが「一人」だということに。
真っ白なこころの中で、いつも一人泣いている本当のわたしに。


Written day:2006/06/14