unlovable
自作小説。主にショートストーリーを書いています。
スイカ

「1匹、2匹、3匹、4匹  」

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小3の夏休み。新幹線で2時間半。田舎のおばあちゃん家に遊びに来ている。
おばあちゃん家は海のすぐ目の前にあり、歩いて1分くらい。海、畑、家の順番。

その家の庭のまん中辺りに、水道管の元栓がある。
その周りを何百匹と動き回るアリ。ものすごい数。

ただ、ぼんやりと眺めているのにも飽きてきた。
水道管の元栓をゆっくりとひねる。水がドボドボあふれて出てきた。
アリの巣へと続く穴へ、水がどんどん流れ込んでいく。洪水だ。
あふれる巣穴。アリたちが水の流れにのまれ、あちらこちらに流れていく。

「1匹、2匹、3匹、4匹  」

蛇口を閉める。
水の流れがなくなり、アリたちはまたさっきと同じように動き回る。
もう何もなかったかのように、えさを探す仕事に戻ってる。

幸せな日常。また蛇口をひねる。今度は思いっきりひねる。
大量の水がアリの世界へと流れ込んでいった。大洪水だ。
巣穴は大量の水と砂で埋まり、たくさんのアリたちが泥水に飲み込まれ流された。

「1匹、2匹、3匹、4匹  」

おばあちゃんがスイカを持ってきてくれた。
あまり好きじゃないけど、悪いから一応食べる。
スイカの種を庭に飛ばす。そこに集まってくるアリたち。もう、また日常に戻ってる。

蛇口を開く。蛇口を閉める。開く、閉める、開く、閉める。
僕の気まぐれに、アリの世界は付き合ってくれる。

次のスイカを食べる。強い日差しの中、冷えたスイカ。
僕は初めてスイカが美味しいと思った。

見えない手。
僕もいつか、誰かの気まぐれに付き合うことになる。


Written day:2006/09/04

マニキュア

私の手の指は全部で11本ある。

右手の親指第2関節から枝分かれするように、もう一本の指がある。
爪も骨も神経も普通の指と同じようにある。
親指から小指がおまけに生えている、といえば分かりやすいかな。

ちなみに私のおばあちゃんは、指が12本。おばあちゃんの場合は、左手に7本ある。
母親は普通の手をしているので、どうやら隔世遺伝らしい。

過去のあだなは、妖怪、化け物、エイリアンなどなど、数え上げれば切がない。

小学生の頃、おまけの指をハサミでちょん切ろうとしたことがあった。
以外にも骨が頑丈で、肉を切っただけで終わった。
病院から帰ってきた私に、おばちゃんが泣いて謝っている姿を今でも覚えている。

高校生になると、あからさまに嫌悪するものは少なくなった。
日常は普通だし、特別なことは何もない。でも、恋をするとやはり普通の女の子とは違う。
一つの壁が私の中にある。このおまけを受け入れてくれるのか、という不安の壁が。

しかし、以外にもあっさりと彼氏は出来た。

付き合うとき、私は彼に聞いた。
期待と不安が体の奥から洪水のように湧き上がる中、一番気になる指のことを。
電車が行き交うホームのベンチで、私は彼の答えを待った。

「別に、気にならないよ」

そんな彼の言葉を聞いて、期待と不安の洪水は目から止め処なくあふれ出ていった。

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日曜日、彼とふたり手を繋いで歩く。
遠足のとき、運動会のダンスのとき、誰かと手を繋ぐとき、私はいつも震えていた。

始めて話したときのことを覚えてる?
おまけの指にも塗ったマニキュアを、あなたは「可愛い」って言ってくれた日のことを。


Written day:2006/07/10