unlovable
自作小説。主にショートストーリーを書いています。
ナイキショップ

「ナイキショップに寄っていかないか?」
高架鉄道の駅に向かう途中、彼女に聞いてみる。

「ううん、行きたくない」
彼女は立ち止らずに歩き続ける。ナイキショップの横を通り過ぎる。

「どうしてだよ」
「ここの店員は人をバカにしてるから」

以前、僕がナイキのスニーカーが欲しくてこの店に来た時のことを思い出す。
なかなか、どれにしようかが決まらず、何度も何度も試し履きをした。店内を何周もした。
その様子をお店の人は不機嫌そうに眺めていた。トーンダウンした僕らは、結局何も買わずに店を出た。

その時から彼女はこの店に対して、嫌悪感を抱いている。
その時から随分と経っていて店員も変っているだろうが、感情はその時のままの様だ。

「でも、嫌な店員のために行動範囲を小さくするのは何だか嫌だな」
「違うの。このお店には近づかないほうが良い。きっと嫌なことが起きるから」

「何それ?」
「虫の知らせ、っていうのかな」

「何だよ、それ?」
「むかしの人は自然に忠実だった、ってこと」

「わけわかんないし」
「流れに逆らって生きても良いことなんてない、ってこと」

高架鉄道のホームへ続くエスカレーターが、空をふたつに分けている。

「結果がどうかなんて、やってみないと分からない。俺は逆らってみたいし、悪い結果ならそれも見てみたい」
「想像力があるようでないよ。崖から飛び降りればどうなるかなんて、簡単なことじゃない」

「俺は飛び降りてみたいと思うし、その先の人生に何があるのかも見てみたい」
「ないわよ何も」

ホームには随分前に着いていた。何台もの車両が僕らに風を叩きつけていった。
当分、ナイキショップに行くことはないだろう。


Written day:2006/05/17

コペルニクス

失ってから始めて気付く大切なものってあるよね。

何かの事情でご飯が食べられないときがあって。
それは忙しかったり、夜遅くて何も食べるものがなかったり。
そんなとき、置きっ放しにしてあったカップヌードルなんかを見つけたときは、すごくラッキーだよね。
そしていつもと変わらない味のはずなのに、ものすごく美味しかったりするんだ。
ちょっと大げさだけど、三食きちんと食事が出来ることに感謝するんじゃないかな。

ある人は仕事に対して不満を持っていた。
残業が多いが残業代は僅か、給料もずっと上がっていない。
でもあるとき、仕事をリストラされた。次の仕事を探してもなかなか見つからない。
家に帰ると家族から「仕事は見つかったの?」と聞かれる。
「いや、まだ」と返事をする。そして、ため息が帰ってくる毎日。

何ヵ月後かに、やっと新しい仕事が見つかった。
そしたらどんな仕事でも頑張ろうと思うんじゃないかな。
仕事が出来る喜びに感謝するんじゃないかな。
満員電車にさえ懐かしさを覚えるんじゃないかな。

ある日、足を骨折した。大好きなサッカーの練習をしていたときに。
何ヵ月後かに完治して歩いたり、走ったり、そしてボールを蹴ることが出来たら、
普段思ったことのない神様にも、お礼を言ったりするんじゃないかな。
空がとてもきれいに見えるんじゃないかな。

ひきこもりをしている人がいた。
ある日、気付いた。ひきこもりが出来る部屋や家があることに。
ひきこもりが出来る自由がある、ということに。

人はいつも誰かに愛されて生きている。家族や友人、恋人。そして自然、地球、宇宙。
でも人はそんな幸せにすぐに慣れてしまう。

そう、僕は慣れてしまっていた。
あの日、どうして僕は自殺なんかしてしまったんだろう。
取り返しのつかないものを僕は失ってしまった。


Written day:2007/08/24

夜のプール

小6の夏休み。
何か楽しいことを探しては、仲間と遊んでばかりいた。

別に僕らは不良じゃない。喧嘩が好きなわけじゃない。
ただ僕らなりに楽しいことを探した結果、それが規則から外れていることはもちろんある。

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夜のプール。隣の地区にある、新校舎になったばかりの中学校。もちろんプールも新しい。
プールの周りには金網が張りめぐらされている。でも、新しくても金網には必ず穴が開いているものだ。
皆そこから入り込む。でも僕はいつも金網をよじ登って中に入る。

夜のプールを泳ぐ。もちろん水着なんか持ってきていない。
皆、フルチンだ。泳ぐと波の合間から、白いケツがポコンと浮かび上がる。
それは滑稽で、とても無邪気な映像だ。

僕は月明かりの中、プールの波が揺らめいているのをぼんやりと眺める。
昼と夜。同じものなのに、昼に見るそれとは全く様子が違う。
僕も昼と夜とじゃ、周りから違って見えているのだろうか。

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「夜のプールに、友達を連れてきていいか」ある日、仲間の一人から聞かれた。
「別にいいけど」と、僕は答えた。

仲間は「ありがとう」と、言って友達に連絡を入れた。
そして仲間が連れてきた友達とは、驚いたことに隣のクラスの学級委員だった。
かるいショックを受けたが、仲間の偏差値が高いことを思い出し、そういう繋がりなんだなと勝手に納得した。

その夜、少し居心地が悪そうに学級委員が仲間に加わった。
学級委員もフルチンで泳いだ。白いケツがポコンと浮かび上がる。
学級委員だろうが、それは変わらない。でも彼が白いのはケツだけじゃなく、全身真っ白だ。

「仲間に入れてくれて、ありがとう」帰り際、学級委員が言った。
「昼間より楽しいだろ」学級委員とは、裏門を出たところで別れた。

結局、学級委員が夜のプールに来たのは、それが最初で最後だった
まじめな奴の、ちょっとした思い出作りだったのかも知れない。

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夜のプール。月の光を浴びながら、黒光りした波を見ている。
僕の体が、水に溶けていく錯覚。夏休みも、もうすぐ終わる。


Written day:2006/08/14